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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)173号 判決

東京都江東区大島2丁目1番1号

原告

トステム株式会社

同代表者代表取締役

潮田健次郎

同訴訟代理人弁護士

吉武賢次

神谷巖

同弁理士

佐藤一雄

前島旭

後藤田章

東京都練馬区豊玉南3丁目21番16号

被告

セイキ工業株式会社

同代表者代表取締役

守谷守

同訴訟代理人弁護士

中井秀之

同弁理士

林宏

内山正雄

藤井幸雄

主文

特許庁が平成5年審判第21201号事件について平成6年6月16日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

主文と同旨の判決

二  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

被告は、名称を「合成樹脂製組立て式デッキ材」とする実用新案登録第1898257号の考案(昭和58年2月2日実用新案登録出願、平成2年3月5日出願公告、平成4年4月7日設定登録、以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。

原告は、平成5年11月4日、被告を被請求人として、特許庁に対し、本件実用新案登録を無効にすることについて審判を請求した。

特許庁は、上記請求を平成5年審判第21201号事件として審理した結果、平成6年6月16日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をなし、その謄本は、同年7月4日原告に送達された。

二  本件考案の要旨

長尺の表板とその下方に長手方向に沿って設けた複数の脚板とを有する合成樹脂製デッキ材において、長手方向に沿う一方の側端部から表板に延設した被板を側方に突出させ、他方の側端部の表板に、隣接するデッキ材の上記被板が幅方向に位置調節自在に載置される凹段部を形設すると共に、該側端部側の脚板の下端から上記凹段部外端よりさらに外側方に達する底板を延設して、該底板の外端に立上がり板を突設することにより、該脚板と立上がり板との間に凹溝を形設し、前記被板を設けた側の側端部に、上記凹溝内に嵌まり込み、且つ隣接するデッキ材との距離を広げる方向に位置調節した場合に該被板の外端が隣接するデッキ材の凹段部に載置された状態から外れない範囲内において上記立上がり板の内側に係合する抑止板を垂設したことを特徴とする合成樹脂製組立て式デッキ材。(別紙図面1参照)

三  審決の理由の要点

1  本件考案の要旨は前項記載のとおりである。

2  請求人(原告)は、本件考案は1982年10月、三協アルミニウム工業株式会社発行のカタログ「規格バルコニーデッキ材」(本訴における甲第4号証。以下書証番号は本訴におけるものを表示する。)に記載されたデッキ材に、実公昭57-45295号公報(甲第6号証)または実願昭52-40571号(実開昭53-134710号)の願書に添付された明細書及び図面のマイクロフィルム(甲第7号証)に記載された凹段部を施すことによって当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法3条2項の規定により登録を受けることができないものであり、同法37条の規定により無効とされるべきものである旨主張している。

3  そこで、請求人の主張について検討する。

(1) 甲第4号証は規格バルコニーデッキ材に関する三協アルミニウム工業株式会社のカタログであって、同号証の特に2枚目の最上段の断面図には、長尺の表板と底板を有し、表板と底板との間に長手方向に沿って設けた複数の脚板を有する硬質塩化ビニール製規格バルコニーデッキ材において、表板の一方の側端部には隣接するバルコニーデッキ材の表板の上に載置される被板と側端部から下方に垂下し突出する突出板を設けるとともに、他方の側端部には脚板の下端から底板を延設し、さらに延設した底板の外端に立上がり板を突設して該脚板と立上がり板の間に凹溝を設けてなる硬質塩化ビニール製規格バルコニーデッキ材が記載されている。(別紙図面2参照。以下、上記バルコニーデッキ材を「甲第4号証のバルコニーデッキ材」という。)

甲第6号証には、ベランダの床材等に用いられる並設用板状体において、長尺板状本体の一方の側壁から外側方に底壁が延長され、さらに立上がり壁が設けられて連結溝が形成され、この連結溝上には前記側壁の上端から外側方に覆板が延長されており、他方の側壁から外側方に前記覆板を支持する支持板が覆板の厚さに相当するだけ側壁の上端から下がった位置から延長され、さらに下方に支持壁が垂下されて連結脚部が形成されており、前記覆板の端縁と立上がり壁の内面との間に支持壁の厚さとほぼ等しい間隙を有してなる並設用板状体が記載されている。(別紙図面3参照)

甲第7号証には、デッキ材本体の一方の側部の上端から横方向にデッキ材本体の上面と同一上面を有する横片を一体突設し、この横片の先端には下方に垂下する垂下片を設けるとともに、デッキ材本体の他方の側部から横方向に所定距離だけ離れた位置に、隣接するデッキ材本体の横片を載置して支持する支持部を設け、この支持部とデッキ本体とを前記支持部の上端より低い上面を持つ連結片にて一体連結してなる合成樹脂製デッキ材が記載されている。(別紙図面4参照)

(2) 本件考案と甲第4号証、第6号証及び第7号証に記載された考案とを対比する。

〈1〉(a) 甲第4号証のバルコニーデッキ材には、表板の一方の側端部に被板が設けられているものの、この被板は前記表板から同じ高さで延設されたものでなく、表板より高くして設けられており、また、表板の他方の側端部には前記被板が載置される凹段部が設けられていないものである。前記バルコニーデッキ材には表板の一方の側端部に同側端部から下方に垂下して突出する突出板及び表板の他方の側端部に脚板の下端から延設した底板の外端に突設した立上がり板が各々設けられている。

(b) しかし、甲第4号証中には、前記突出板の下端と立上がり板の上端が係合するものであると認めるに足る記載及び前記バルコニーデッキ材の設置に際してバルコニーデッキ材を幅方向に積極的に調節可能に設置できるものであると認めるに足る記載がないことからみて、前記バルコニーデッキ材における突出板と立上がり板は本件考案における抑止板と立上がり板に相当するものと認めることができない。

(c) したがって、甲第4号証に記載された考案には、本件考案の構成要件である「長手方向に沿う一方の側端部から表板に延設した被板を側方に突出させ、他方の側端部の表板に、隣接するデッキ材の上記被板が幅方向に位置調節自在に載置される凹段部を形設すると共に、該側端部側の脚板の下端から上記凹段部外端よりさらに外側方に達する底板を延設して、該底板の外端に立上がり板を突設することにより、該脚板と立上がり板との間に凹溝を形設し、前記被板を設けた側の側端部に、上記凹溝内に嵌まり込み、且つ隣接するデッキ材との距離を広げる方向に位置調節した場合に該被板の外端が隣接するデッキ材の凹段部に載置された状態から外れない範囲内において上記立上がり板の内側に係合する抑止板を垂設した」という構成について開示されていない。

(d) なお、請求人は、甲第4号証のバルコニーデッキ材に関連して甲第8号証(「仮想組立図」と表示した図が記載されている書面)を提出しているが、同号証中には同図の作成者の署名又は捺印がないばかりでなく、同図の構成、特に同図に記載された隣接するデッキ材相互の設置構成が甲第4号証中のどの記載に基づいて記載されたものかその根拠が不明であるから、甲第8号証は証拠として採用できない。

〈2〉(a) 甲第6号証に記載された考案の並設用板状体は一方の側壁の上端から外側方に延長され連結溝上にある覆板、及び他方の側壁から外側方に覆板の厚さに相当するだけ前記側壁上端より下がつた位置から延長された支持板を有している。

(b) しかし、並設用板状体の敷設、連結に際しては、既に敷設した並設用板状体の覆板の下面に、隣接する並設用板状体の支持板をもぐらせて行うものであって、本件考案のデッキ材のように既に敷設したデッキ材の凹段部に隣接するデッキ材の被板を載置して行うものではないから、前記並設用板状体における覆板、支持板は本件考案のデッキ材における被板、凹段部に各々相当するものでなく、さらに前記並設用板状体には本件考案のデッキ材における立上がり板、抑止板に相当するものを見出すことができない。

〈3〉(a) 甲第7号証に記載された考案のデッキ材はデッキ材本体の一方の側部から横方向に突設した横片、デッキ材本体の他方の側部から横方向に所定距離だけ離れた位置に設けた支持部、前記支持部の上端より低い上面を持ちデッキ本体と支持部とを一体連結する連結片を有しているが、前記横片はその先端に垂下片を備え、前記支持部の上端は連結片の上面より突出しているので、このデッキ材を敷設した場合に、隣接するデッキ材間に本件考案のデッキ材に比べて段差の大きい溝が生じるものであり、このデッキ材における横片、連結片は、デッキ材の表面の凹凸を可及的に少なくするという機能を有するものとは認められないから、本件考案のデッキ材における被板、凹段部に各々相当するものと認めることができない。

(b) また、このデッキ材には本件考案のデッキ材における立上がり板、抑止板に相当するものも見出すことができない。

〈4〉 それ故、甲第6号証及び第7号証に記載された考案にも本件考案の構成要件である前記構成について開示されていない。

〈5〉 本件考案は、その構成要件である前記構成を具備することにより、「隣接するデッキ材間の隙間を隠蔽した状態で順次連結し、しかも隣接デッキ材間の距離を調節して、床面の広さに対応させ得るのは勿論であるが、それらのデッキ材を順次連結して敷き詰めるに際し、特定の方向から連結するような施工上の自由度の制限がなく、単に並置するだけで隣接デッキ材間を連結して設置することができる。」、「さらに、一般にデッキ材は、人が歩くときのつまずきや、テーブル、椅子等の安定的な設置を可能にするため、表面の凹凸を可及的に少なくし、実質的に平面状にすることが望まれるが、上述した本件考案のデッキ材においては、デッキ材の表板に被板を延設して側方に突出させ、表板の他方の側端部にその被板が載置される凹段部を形設しているので、上記凹凸を可及的に少なくすることができる。」等の明細書記載の格別な効果を奏するものと認められる。

〈6〉 したがって、本件考案は、甲第4号証、第6号証及び第7号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものと認めることができないから、甲第4号証のカタログが本件考案の出願前に国内において頒布された刊行物であるか否かについて検討するまでもなく、請求人の主張する前記理由を採用することができない。

4  以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠によつては、本件考案の登録を無効とすることはできない。

四  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点1、2、3(1)は認める。同3(2)〈1〉につき、(a)は認めるが、(b)ないし(d)は争う。同3(2)〈2〉につき、(a)は認めるが、(b)は争う。同3(2)〈3〉につき、(a)は認めるが、(b)は争う。同3(2)〈4〉、〈5〉は認めるが、〈6〉は争う。同4は争う。

本件考案は、甲第4号証及び第6号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、これを否定した審決の判断は誤りである。

1  甲第4号証(三協アルミニウム工業株式会社発行のカタログ「規格バルコニーデッキ材」)は、本件考案の実用新案登録出願前に日本国内において頒布された刊行物である。

甲第4号証の表紙には「’82年10月発行」と、2枚目には「’82 10」とそれぞれ記載されていること、同号証と同じく三協アルミニウム工業株式会社から頒布された「エクステリア製品総合力タログ」(甲第11号証)の表紙には「82年1月1日現在価格」と、第97頁には「デッキ材シラキ」と、奥付には「昭和57年9月1日発行」とそれぞれ記載されていることからすると、甲第4号証のカタログが、本件考案の実用新案登録出願日の約4カ月前である昭和57年10月に発行されたことは明らかである。そして、発行された以上、特別の理油のない限り頒布されるのが普通であり、現に第三者が甲第4号証のカタログを所持しているのであるから(甲第5号証)、上記カタログが公知の資料であることは明確である。

2(1)  甲第4号証の2枚目の最上段の断面図には、「長尺の表板とその下方に長手方向に沿って設けた複数の脚板とを有する合成樹脂製デッキ材において、長手方向に沿う一方の側端部から表板に延設した被板を側方に突出させ、他方の側端部の表板に、隣接するデッキ材の上記被板が幅方向に位置調節自在に載置される部分を設けると共に、該側端部側の脚板の下端から上記部分外端よりさらに外側方に達する底板を延設して、該底板の外端に立上がり板を突設することにより、該脚板と立上がり板との間に凹溝を形設し、前記被板を設けた側の側端部に、上記凹溝内に嵌まり込み、且つ隣接するデッキ材との距離を広げる方向に位置調節した場合に該被板の外端が隣接するデッキ材の部分に載置された状態から外れない範囲内において上記立上がり板の内側に係合する突出板(抑止板)を垂設したことを特徴とする合成樹脂製組立て式デッキ材。」が記載されている。

(2)  甲第6号証(昭和57年10月6日出願公告)には、「側壁3の上端から外側方に表面板2が延長されて覆板9が形成されている。」(第3欄1行ないし3行)、「板状本体1の他方の側壁3′には外側方に支持板10が延長され、」(同欄4行、5行)、「支持板10は覆板9を上面で支持するものであるから、側壁3′の上端から覆板9の厚さに相当するだけ下がった位置から延長され、」(同欄7行ないし9行)、「支持板10の上面で覆板9が支持されるようにして」(同欄17行、18行)、「並設用板状体を設置する場所の幅に応じて連結脚部12が連結溝8内への嵌挿度合を調整して使用される。第1図では相隣る並設用板状体がもっとも近接された状態を示しており、第2図ではもっとも離して設置された状態を示している。」(同欄20行ないし24行)、「連結脚部を連結溝の輻方向に摺動して相隣る並設用板状体間の幅方向の並設状態を調整することができる。覆板は支持板により支持されているので、床材として使用しても踏圧に耐え、かつ連結部は覆板と支持板とにより間隙が生じないものとなっている。」(第4欄11行ないし16行)と記載されており、これらの記載と、第1図及び第2図から明らかなように、デッキ材の一方の側にある支持板は、隣接するデッキ材の隣接する覆板の厚さ分だけ下がった凹段部となっていて、覆板を上面で支持し、デッキ材の設置幅に応じて、第1図の状態と第2図の状態との間で覆板が支持板上で摺動調節自在となっている。

(3)  甲第4号証に記載された公知のデッキ材と対比すると、本件考案は、隣接するデッキ材の一側端部の表板に延設した被板が幅方向に位置調節自在に載置される部分を凹段部としたものであると認められる。ところが、隣接する被板が幅方向に位置調節自在に載置される部分を凹段部とすることは、前述のように、甲第6号証に記載されている公知の技術である。

しかして、本件考案は、甲第4号証に記載されたデッキ材の表板の一側端部に、甲第6号証に記載された凹段部を施したものであると認められるところ、このことは、当業者においてきわめて容易に想到し得ることである。そして、このように公知の技術を組み合わせることによって、審決の摘示する本件考案の効果と同様の効果を奏することは当然予測し得ることである。

したがって、本件考案は、甲第4号証、第6号証及び第7号証に記載された考案に基づいて当業者が容易に考案をすることができたものとは認められないとした審決の判断は誤りである。

(4)〈1〉  審決は、甲第4号証中には突出板の下端と立上がり板の上端が係合するものであると認めるに足る記載、及び、バルコニーデッキ材の設置に際して幅方向に積極的に調節可能に設置できるものであると認めるに足る記載はないとしたうえ、甲第4号証のバルコニーデッキ材における突出板と立上がり板は本件考案における抑止板と立上がり板に相当するものとは認められない旨判断している。

しかし、規格バルコニーといえども、設計上の制約から、バルコニーの幅はデッキ材の幅の厳密な整数倍にはなっていない。このため施工業者は、設置する複数枚のデッキ材を幅方向に調節して施工する必要がある。甲第4号証に示される1枚のデッキ材を見た当業者は、左右側縁の特殊な溝と張出し部、並びにデッキ材を幅方向に複数枚並べた表紙の写真を見て、それが当然隣接するデッキ材と何らかの係合関係をもつものと直観的に理解し、それら溝と張出し部を図面上で対比して、その係合関係と幅方向の調節可能性を直ちに見てとるであろう。また、溝に幅があることから、それが幅の調節を可能にするためのものであることも、当業者は直ちに理解できることである。

したがって、突出板の下端と立上がり板の上端が係合するものであること、すなわち、突出板と立上がり板が、それぞれ本件考案の抑止板と立上がり板に相当すること、及び、甲第4号証のバルコニーデッキ材を幅方向に調節可能に設置できることは明らかであって、審決の上記判断は誤りである。

〈2〉  審決は、甲第6号証に記載された並設用板状体の敷設に際しては、既に敷設した並設用板状体の覆板の下面に、隣接する並設用板状体の支持板をもぐらせて行うものであって、本件考案のデッキ材のように既に敷設したデッキ材の凹段部に隣接するデッキ材の被板を載置して行うものではないから、上記並設用板状体における覆板、支持板は本件考案のデッキ材における被板、凹段部に各々相当するものではないとしている。

しかし、甲第6号証の並設用板状体においては、覆板と立上がり壁の隙間に、隣に持ってくる並設用板状体の支持板を差し込み、後に当該並設用板状体を左右に動かして位置決めをすればよいのであって、特に施工上の自由度の制限があるわけではない。のみならず、本件考案におけるデッキ材は、「特定の方向から連結するような施工上の制限がない」のであるから、本件考案の明細書第1図の、既に設置されたデッキ材の左から新たなデッキ材を敷設することもあるというべきである。その場合には、既に設置されたデッキ材の左端を少し上げ、抑止板Sの奥にデッキ材の立上がり板Tをもぐらせて差し込み、後に新たなデッキ材を左右に動かして位置決めをするのであり、甲第6号証に記載された並設用板状体の場合と何ら変わりはない。

また審決は、甲第6号証の並設用板状体には本件考案のデッキ材における立上がり板、抑止板に相当するものを見出すことができないとしている。

しかし、甲第6号証の並設用板状体における立上がり壁は底壁から立上がり、支持壁は表板から垂設し、係合することによって隣接する並設用板状体が外れないようにするものであるから、それぞれ本件考案の立上がり板と抑止板に相当するものである。

〈3〉  なお、甲第7号証の第1図を見れば、本件考案の表板に相当する横片(2)の先端からは垂下部(2a)が垂下しており、支持部(3)は底板に相当する連結片(4)から立上がり、両者は係合して隣接するデッキ材が外れないようにしているのであって、垂下部(2a)と支持部(3)は、それぞれ本件考案における抑止板と立上がり板に相当するものであるから、甲第7号証に記載されたデッキ材には、本件考案のデッキ材における立上がり板、抑止板に相当するものを見出すことができないとした審決の判断は誤りである。

第三  請求の原因に対する認否及び反論

一  請求の原因一ないし三は認める。同四は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の違法はない。

二  反論

1  甲第4号証のカタログは、本件考案の実用新案登録出願前に頒布された刊行物ではない。

甲第5号証は信憑性がなく、甲第4号証の公知性を裏付けるものとはいえない。また、甲第11号証も本件審決取消事由と無関係の事項が記述されているだけであって、甲第4号証の公知性を裏付けるものではない。

2(1)  甲第4号証のカタログには、原告が主張するような、「前記被板を設けた側の側端部に、上記凹溝内に嵌まり込み、且つ隣接するデッキ材との距離を広げる方向に位置調節した場合に該被板の外端が隣接するデッキ材の部分に載置された状態から外れない範囲内において上記立上がり板の内側に係合する突出板(抑止板)を垂設した」構成は記載されていない。

突出板と立上がり板とが、なぜ甲第4号証記載のような形状をしているのかと考えたとき、当業者であっても、突出板は隣接デッキ材に当たる面を若干大きくしたものであり、立上がり板はデッキ材から側方に流れ落ちる雨水を受けるための樋を形成している、という程度の認識をするのが通例であり、特に正確に描かれている保証もない甲第4号証の断面図から、突出板と立上がり板とが係合するか否かを検討するとは到底考えられない。

したがって、甲第4号証のバルコニーデッキ材における突出板と立上がり板は本件考案における抑止板と立上がり板に相当するものと認めることができないとした審決の判断に誤りはない。

原告は、甲第4号証中には突出板の下端と立上がり板の上端が係合するものであると認めるに足る記載、及びバルコニーデッキ材の設置に際してバルコニーデッキ材を幅方向に積極的に調節可能に設置できるものであると認めるに足る記載がないとした審決の判断は誤りである旨主張する。

しかし、甲第4号証のカタログは「規格バルコニー」のデッキ材についてのものであって、その2枚目に「規格バルコニーにぴったりのサイズ長さはすべて規格バルコニーの寸法に合わせました。」と記載されていることからも明らかなように、同号証のバルコニーデッキ材は、規格化されたバルコニーに合わせて寸法設定されたものであり、バルコニーの長さ、幅がいろいろあるものに対して調節可能にしたものではなく、調節して施工する必要のないものである。

したがって、当業者が甲第4号証のカタログを見ても、同号証のバルコニーデッキ材が調節可能なものであるとは到底直観的に理解できるものではない。さらに、突出板の下端と立上がり板の上端が係合するものであることなどは、如何に詳細にカタログをみても到底理解できることではない。

(2)  甲第6号証記載の並設用板状体は、覆板と立上がり壁の隙間に、隣に持ってくる並設用板状体の支持板を差し込み、後に当該並設用板状体を左右に動かして位置決めをするものであるため、施工しようとする並設用板状体を、支持板の差し込み後に動かす分だけ、既に設置した並設用板状体から離れた位置において敷設する必要があり、それだけ並設用板状体の敷設面に余裕があることが必要である。したがって、甲第6号証の並設用板状体では施工上の自由度の制限がある。これに対し、本件考案のデッキ材は、その構造自体が、特定の方向から連結しなければならないような施工上の制限を有する構造になっていない。

このような差異がある以上、甲第6号証の並設用板状体には本件考案のデッキ材における立上がり板、抑止板に相当するものを見出すことができないとした審決の判断に誤りはない。

原告は、甲第6号証記載の並設用板状体においては、支持板は、隣接するデッキ材の隣接する覆板の厚さ分だけ下がった凹段部となっていて、覆板を上面で支持し、デッキ材の設置幅に応じて、第1図の状態と第2図の状態との間で覆板が支持板上で摺動調節自在となっている旨主張するが、そのような構造にはなっていない。

なぜならば、支持板が隣接するデッキ材の覆板の厚さ分だけ下がった凹段部となっていて、覆板を上面で支持するのであれば、隣接するデッキ材の覆板と支持板とがピッタリと接触するので、覆板と支持板を第1図の状態と第2図の状態との間で摺動調節自在とすることができず、逆に、覆板と支持板を摺動調節自在とすれば、支持板上に覆板を載置して支持する構造にはできないからである。

(3)  上記のとおり、甲第4号証のカタログには、立上がり板の内側に係合する抑止板を垂設したデッキ材について記載されておらず、甲第6号証に記載のものは、支持板上に覆板を載置して支持する構造になっているか否か分からないものであるから、甲第4号証記載のものと甲第6号証記載のものとを結合しても、本件考案のように構成することはできず、本件考案の効果を得ることもできない。

(4)  なお、甲第7号証の第1図記載のものは、本件考案における被板に相当するものを備えていない。したがって、たとえ互いに係合する垂下部(2a)と支持部(3)が記載されているとしても、それらは本件考案における抑止板、立上がり板に相当するものではないから、この点についての審決の判断に誤りはない。

(5)  以上のとおりであるから、本件考案は、甲第4号証、第6号証及び第7号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものとは認められないとした審決の判断に誤りはない。

第四  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本件考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二  本件考案の概要

成立に争いのない甲第3号証(本件考案の実用新案公報及び訂正公報)によれば、本件考案は、「その多数を順次連結して敷き詰めることによりデッキ材を構成する合成樹脂製組立て式デッキ材に関するもの」(同公報第1欄21行ないし23行)であって、「隣接するデッキ材間の距離が調節可能で、それらのデッキ材間の隙間を隠蔽した状態で順次連結して敷き詰め可能にしたデッキ材を、その施工に際して特定の方向から連結するような施工上の自由度の制限を排除し、隣接デッキ材間の距離を簡単且つ容易に調整して連結設置可能にすると共に、並列敷設したデッキ材の表面に可及的に凹凸が生じないように構成すること」(同公報第2欄24行ないし第3欄4行及び訂正公報2項)を技術的課題として、本件考案の要旨記載のとおりの構成を採用したものであり、この構成により、「隣接するデッキ材間の隙間を隠蔽した状態で順次連結し、しかも隣接デッキ材間の距離を調節して、床面の広さに対応させ得るのは勿論であるが、それらのデッキ材を順次連結して敷き詰めるに際し、特定の方向から連結するような施工上の自由度の制限がなく、単に並置するだけで隣接デッキ材間を連結して設置することができる。」(同公報第5欄40行ないし第6欄6行)、「脚板と底板の外端に突設した立上がり板との間に形成された凹溝内に、デッキ材の被板を設けた側の側端部に垂設した抑止板を嵌め込んでいるので、凹段部の高さ等とは無関係に、立上がり板と抑止板の十分な係合を得ることができる。しかも、この凹溝に対する抑止板の嵌め込みによって隣接デッキ材の調節移動範囲を制限しているので、隣接デッキ材間の間隔を広げようとする場合の限度も、上記抑止板と立上がり板との係合で容易に知ることができ、誤って被板の先端が凹段部から外れそうな状態で隣接デッキ材を敷設するようなこともなく、従ってデッキ材の位置決めを簡単且つ容易に調整することができ、作業性のよい施工を行うことができる。」(同公報第6欄19行ないし33行)、「一般にデッキ材は、人が歩くときのつまずきや、テーブル、椅子等の安定的な設置を可能にするため、表面の凹凸を可及的に少なくし、実質的に平面状にすることが望まれるが、上述した本考案のデッキ材においては、デッキ材の表板に被板を延設して側方に突出させ、表板の他方の側端部にその被板が載置される凹段部を形設しているので、上記凹凸を可及的に少なくすることができる。」(訂正公報3項)という効果を奏するものであることが認められる(なお、上記効果を奏することについては当事者間に争いがない。)。

三  取消事由に対する判断

1  甲第4号証の公知性について

成立に争いのない甲第4号証は「規格バルコニーデッキ材」に関する三協アルミニウム工業株式会社発行のカタログであるが(このことは当事者間に争いがない。)、同カタログの表紙の右上には「’82年10月発行」と、2枚目の右上には「’82 10」とそれぞれ記載されていることが認められる。

発行時についての上記記載、及び、カタログはその性質上、配布、公開を目的として作成される刊行物であることからすると、甲第4号証のカタログは、遅くとも本件考案の実用新案登録出願時(昭和58年2月2日)よりも前に日本国内において頒布されたものと推認するのが相当であって、この推認を左右すべき証拠はない。

2  本件考案の容易推考性について

(1)  甲第4号証、第6号証及び第7号証に審決摘示の各事項が記載されていること、甲第7号証記載のデッキ材における横片、連結片は本件考案のデッキ材における被板、凹段部にそれぞれ相当するものではないこと、及び、審決の理由の要点3(2)〈4〉については、当事者間に争いがない。

(2)〈1〉  甲第4号証の2枚目の最上段の断面図には、長尺の表板と底板を有し、表板と底板との間に長手方向に沿って設けた複数の脚板を有する硬質塩化ビニール製規格バルコニーデッキ材において、表板の一方の側端部には隣接するバルコニーデッキ材の表板の上に載置される被板と側端部から下方に垂下し突出する突出板を設けるとともに、他方の側端部には脚板の下端から底板を延設し、さらに延設した底板の外端に立上がり板を突設して該脚板と立上がり板の間に凹溝を設けてなる硬質塩化ビニール製規格バルコニーデッキ材(甲第4号証のバルコニーデッキ材)が記載されていること、甲第4号証のバルコニーデッキ材の表板の一方の側端部に設けられている被板は前記表板から同じ高さで延設されたものでなく、表板より高くして設けられており、また、表板の他方の側端部には前記被板が載置される凹段部が設けられていないことは、当事者間に争いがない。

〈2〉  上記〈1〉のとおり、甲第4号証のバルコニーデッキ材の表板の一方の側端部にある被板は、隣接するバルコニーデッキ材の表板の上に載置されるものであること、及び、同号証の表紙には幅方向に連結されたデッキ材の写真が掲載されていることからして、同号証のバルコニーデッキ材が幅方向に連結して用いられるもの、すなわち組立て式のものであることは明らかであり、このことは同号証からきわめて容易に知り得ることであると認められる。

ところで、甲第4号証のバルコニーデッキ材について、同号証には、幅と高さの寸法が記載されているだけであって、側端部から下方に垂下し突出する突出板及び立上がり板の各寸法については記載されておらず、突出板の下端と立上がり板の上端が係合するものである旨、及び、バルコニーデッキ材の設置に際してバルコニーデッキ材を幅方向に積極的に調節可能に設置できる旨の具体的な説明はない。

しかし、上記のとおり、甲第4号証のバルコニーデッキ材は、幅方向に連結して用いられる組立て式のものであって、一方の側端部には隣接するバルコニーデッキ材の表板の上に載置される被板と側端部から下方に垂下し突出する突出板を設け、他方の側端部には脚板の下端から底板を延設し、さらに延設した底板の外端に立上がり板を突設して脚板と立上がり板の間に凹溝を設けていること、甲第4号証によれば、同号証のバルコニーデッキ材において、突出板が設けられている側には、底板から脚板に平行な立上がり部分、この部分から突出板方向に折れ曲がり表板と平行な部分及び突出板によって凸状形部分が形成されていることが認められるが、上記バルコニーデッキ材は連結して用いられるものである以上、立上がり板がこの凸状形部分内に入り込み、突出板が凹溝内に嵌まり込むものと考えるのが通常であり、他の態様は考えられないこと、甲第4号証には、同号証のバルコニーデッキ材について、上記凸状形部分、凹溝及び被板がそれぞれほぼ同程度の幅を有するものとして描かれており、幅方向に位置調節することが可能であることが前提とされていると認められること、甲第4号証の2枚目に記載されている断面図の3段目と4段目の各バルコニーデッキ材の両側端部の形状をみても、バルコニーデッキ材は、隣接するものが外れないように組み立てて使用するものであることは明らかであることを総合すると、甲第4号証のバルコニーデッキ材は、突出板の下端と立上がり板の上端が係合するものであって、そのような位置関係になるような寸法で構成されており、また、バルコニーデッキ材を幅方向に積極的に調節可能に設置できるものであり、したがって、「被板を設けた側の側端部に、凹溝内に嵌まり込み、且つ隣接するデッキ材との距離を広げる方向に位置調節した場合に被板の外端が隣接するデッキ材の部分に載置された状態から外れない範囲内において立上がり板の内側に係合する突出板を垂設した」構成を有しているものと解するのが相当であり〔ちなみに、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第10号証(1993年8月三協アルミニウム工業株式会社発行の規格バルコニーデッキ材の取り扱い説明書)には、甲第4号証のバルコニーデッキ材と同一形状のバルコニーデッキ材について、上記のような構成が示されている。〕、かつ、当業者であれば、甲第4号証から上記のように理解することはきわめて容易であると認めるのが相当である。

したがって、甲第4号証のバルコニーデッキ材における突出板と立上がり板は本件考案の抑止板と立上がり板に相当するものと認めるのが相当であり、これに反する審決の判断は誤りというべきである。

〈3〉  被告は、突出板と立上がり板とが、なぜ甲第4号証記載のような形状をしているのかと考えたとき、当業者であっても、突出板は隣接デッキ材に当たる面を若干大きくしたものであり、立上がり板はデッキ材から側方に流れ落ちる雨水を受けるための樋を形成している、という程度の認識をするのが通例である旨主張する。

しかし、甲第4号証のバルコニーデッキ材が幅方向に連結して用いられるものであること、上記バルコニーデッキ材の両側端部の形状自体、及び、突出板につき隣接デッキ材に当たる面を大きくしなければならない技術的意味が存するとは考えられないことに照らして、被告の上記主張は採用できない。

また被告は、甲第4号証のカタログは規格バルコニーのデッキ材についてのものであって、同号証のバルコニーデッキ材は規格化されたバルコニーに合わせて寸法設定されたものであり、バルコニーの長さ、幅がいろいろあるものに対して調節可能にしたものではなく、調節して施工する必要のないものであるから、当業者が甲第4号証のカタログを見ても、調節可能であるとは到底直感的に理解できるものではないし、また、突出板の下端と立上がり板の上端が係合するものであることも到底理解できることではない旨主張する。

甲第4号証は規格バルコニーデッキ材についてのカタログであり、同号証の2枚目には「規格バルコニーにぴったりのサイズ」と記載されていることが認められるが、上記記載の下段には「長さはすべて規格バルコニーの寸法に合わせました。現場で切断する手間がかかりません。(9.4尺、13尺を除く)」と記載されていることからも明らかなように、「規格バルコニーにぴったりのサイズ」というのは、バルコニーデッキ材の長さに関してのものであり、幅についてのものではないこと、規格化されたバルコニーといえども、設計上の制約から、バルコニーの幅がデッキ材の幅の正確な整数倍になっておらず、そのため、設置する複数枚のデッキ材を幅方向に調節して施工する必要があることが通常であると考えられること、及び、上記〈2〉において説示したところに照らして、被告の上記主張は採用できない。

〈4〉  しかして、上記〈1〉、〈2〉に認定、説示したところによれば、甲第4号証には、「長尺の表板とその下方に長手方向に沿って設けた複数の脚板とを有する合成樹脂性デッキ材において、長手方向に沿って表板の一方の側端部に被板を設けて側方に突出させ、他方の側端部側の脚板の下端から表板外端よりさらに外側方に達する底板を延設して、該底板の外端に立上がり板との間に凹溝を形設し、前記被板を設けた側の側端部に、上記凹溝内に嵌まり込み、且つ隣接するデッキ材との距離を広げる方向に位置調節した場合に該被板の外端が隣接するデッキ材の表板に載置された状態から外れない範囲内において上記立上がり板の内側に係合する抑止板を垂設したことを特徴とする合成樹脂性組立て式デッキ材。」が記載されているものと認められる。

したがって、甲第4号証のバルコニーデッキ材と本件考案のデッキ材とを対比すると、本件考案のデッキ材においては、他方の側端部の表板に、隣接するデッキ材の被板が幅方向に位置調節自在に載置される凹段部が形設されているのに対し、甲第4号証のバルコニーデッキ材においては、他方の側端部の表板に上記のような凹段部が形設されていない点、及び、本件考案のデッキ材においては、被板は表板に延設したもので同じ高さであるのに対し、甲第4号証のバルコニーデッキ材においては、被板は表板から同じ高さで延設されたものでなく、表板より高く設けられている点で相違し、その余の構成は一致しているものと認められる。

(3)〈1〉  上記(1)のとおり、甲第6号証には、ベランダの床材等に用いられる並設用板状体において、長尺板状本体の一方の側壁から外側方に底壁が延長され、さらに立上がり壁が設けられて連結溝が形成され、この連結溝上には前記側壁の上端から外側方に覆板が延長されており、他方の側壁から外側方に前記覆板を支持する支持板が覆板の厚さに相当するだけ側壁の上端から下がった位置から延長され、さらに下方に支持壁が垂下されて連結脚部が形成されており、前記覆板の端縁と立上がり壁の内面との間に支持壁の厚さとほぼ等しい間隙を有してなる並設用板状体が記載されていることは、当事者間に争いがない。そして、同号証(成立に争いがない。)には、「並設用板状体を設置する場所の幅に応じて連結脚部12が連結溝8内への嵌挿度合を調整して使用される。第1図では相隣る並設用板状体がもっとも近接された状態を示しており、第2図ではもっとも離して設置された状態を示している。」(第3欄20行ないし24行)、「連結脚部を連結溝の幅方向に摺動して相隣る並設用板状体間の幅方向の並設状態を調整することができる。」(第4欄11行ないし13行)と記載されていることが認められる。また、同号証の第1図、第2図(別紙図面3参照)によれば、覆板9は表面板2と同じ高さで延設されたものであることが認められる。

甲第6号証の上記記載及び第1図、第2図から明らかなように、同号証記載の並設用板状体においては、隣接する並設用板状体の覆板を支持する支持板が覆板の厚さに相当する分だけ側壁の上端から下がった位置から延長されていて、凹段部を形成しており、かつ、並設用板状体を設置する場所の幅に応じて覆板が支持板上を摺動調節自在となっているものである。

ところで、甲第6号証記載の並設用板状体の敷設、連結に際しては、既に敷設した並設用板状体の覆板の下面に、隣接する並設用板状体の支持板をもぐらせて行うものであり、本件考案のデッキ材のように既に敷設したデッキ材の凹段部に隣接するデッキ材の被板を載置して行うものではないが、甲第6号証記載の並設用板状体においても、覆板を支持する支持板が覆板の厚さに相当する分だけの凹段部を形成しており、かつ、覆板が支持板上を摺動調節自在となっているのであるから、その点では、覆板、支持板は本件考案のデッキ材における被板、凹段部とそれぞれ共通しているということができる。

したがって、甲第6号証記載の並設用板状体における覆板、支持板は本件考案のデッキ材における被板、凹段部にそれぞれ相当するものではないとした審決の判断は誤っているものというべきである。

〈2〉  被告は、甲第6号証記載の並設用板状体において、支持板が隣接するデッキ材の覆板の厚さ分だけ下がった凹段部となっていて、覆板を上面で支持するのであれば、隣接するデッキ材の覆板と支持板とがピッタリと接触するので、覆板と支持板を第1図の状態と第2図の状態との間で摺動調節自在とすることができず、逆に、覆板と支持板を摺動調節自在とすれば、支持板上に覆板を載置して支持する構造にはできない旨主張する。

しかし、甲第6号証の上記記載及び第1図、第2図によれば、同号証記載の並設用板状体においては、支持板が隣接する覆板の厚さに相当する分だけ下がった凹段部を形成しており、かつ、デッキ材の設置幅に応じて覆板が支持板上を摺動調節自在となっていることは明らかであって、被告の上記主張は採用できない。

なお被告は、甲第6号証記載の並設用板状体では施工上の自由度の制限があるのに対して、本件考案のデッキ材は、その構造自体が特定の方向から連結しなければならないような施工上の制限がないことを理由として、上記並設用板状体には本件考案のデッキ材における立上がり板、抑止板に相当するものを見出すことができないとした審決の判断に誤りはない旨主張するところ、上記並設用板状体における立上がり壁、支持壁は係合して、隣接する並設用板状体を外れないようにするものであるから、審決の上記判断は相当とは認め難いが、前記説示したとおり、甲第4号証のバルコニーデッキ材における突出板と立上がり板がそれぞれ本件考案の抑止板、立上がり板に相当するものであるから、被告の上記主張については、これ以上検討する必要のないものである。

(4)  上記(2)〈4〉に認定のとおり、甲第4号証のバルコニーデッキ材は、本件考案のデッキ材におけるような、側端部の表板に、隣接するデッキ材の被板が幅方向に位置調節自在に載置される凹段部が形成されておらず、また、被板が表板より高く設けられているものであって、その点で本件考案と相違するものであるところ、甲第6号証には、並設用板状体において、支持板が隣接する覆板(本件考案の被板に相当する。)の厚さに相当する分だけ下がった凹段部を形成しており、かつ、板状体の設置幅に応じて覆板が支持板(凹段部)上を摺動調節自在であること、並びに、覆板は表面板と同じ高さで延設されたものであることが開示されているのであるから、甲第4号証のバルコニーデッキ材の側端部の表板に甲第6号証に開示されている上記凹段部を施し、また、被板を覆板のように表板と同じ高さのものとして、本件考案に想到することはきわめて容易になし得る程度のことと認めるのが相当である。そして、前記二項に認定の本件考案の効果も、甲第4号証及び第6号証記載の考案から当然予測し得る程度のものであって、格別のものとは認められない。

以上のとおりであるから、本件考案は、甲第4号証、第6号証及び第7号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとは認められないとした審決の判断は誤っているものといわざるを得ず、原告主張の取消事由は理由があり、審決は違法として取消しを免れない。

四  よって、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

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